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長崎家庭裁判所 昭和61年(少)689号 決定

少年 S・Y子(昭46.10.2生)

主文

少年を養護施設に送致する。

理由

(非行事実)

司法警察員作成の昭和61年5月12日付少年事件送致書記載の審判に付すべき事由及び同年6月3日付少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであるから、これらをここに引用する。

(法令の適用)

ぐ犯につき少年法3条1項3号イロニ

傷害につき刑法204条、60条

暴力行為等処罰に関する法律違反につき同法1条

(処遇の理由)

1  少年は、中学2年生になつたころから無断外泊が始まり、中学3年生になつた昭和61年4月20日からは約7日間の、同月29日からは約13日間のそれぞれ家出をし、その間4月20日には集団暴行事件を惹起している。同年6月18日、当裁判所において試験観察決定を言い渡された後は家庭に落ち着くかにみえたが、8月1日からは4日間の家出をし、さらに9月3日には再度家出をしたため、同月17日補導され、同日観護措置がとられるに至つた。

2  少年のぐ犯事由としては家出が中心であるところ、その主な原因は家庭環境、とりわけ養父との不和に求められる。すなわち、少年の家族は、実母、実兄、養父(養父と実母は昭和58年10月婚姻)、養父の実子3人、養父と実母間の子2人という複雑な構成であり、その間に軋轢が存するのに加えて、少年は中学入学後、養父から性的いたずらを受けたり、暴力をふるわれたりしたことから、極度に養父を嫌い、そのことが家出の主な原因をなしていると考えられる。養父は、少年の非行が明らかになると、少年の監督ということで、夏休み中も少年を養父の仕事に同道させるなど過干渉な面もうかがえ上記事実も考えあわせるとき、養父に監護能力があるとは認め難い。実母については、幼少の子をかかえ、また昭和61年9月に出産したばかりであつて、現状を打開しうる能力を有せず、現段階においては、養父、実母、少年共々少年の施設収容を望んでいる。

3  少年の非行性について検討するに、本件非行中の集団暴行事件は、女子中学生らによるいわゆる集団リンチ事件という悪質なものであり、少年が実行行為に及んでいることも無視できない。しかし、事件全体をみるとき、少年は友人から誘われ偶々加担したという追従的な役割を果たしているにすぎないこと、在学校においては、明るく素直な生徒との評価も受け、特に問題視されているわけではないこと、上記のとおり家出期間も通算すると長期間に及んでいるけれども、上記集団暴行事件を別にすれば、その間犯罪行為を行なつたとは認められないことなど考えると、その非行性が進んでいるとは認め難く、今回の鑑別所入所により反省も進んでいることも考えあわせると、生活環境の改善さえ果たせれば、再非行の恐れは高くないと思われる。

4  そこで少年の処遇について考えるに、家庭環境は上記のとおりであつて改善の見込みは薄く、父母、少年共に施設収容を希望している状況の下では、少年を家庭に帰すことは適切でなく、少年の保護のためには施設収容もやむえないところと判断される。そして上記のとおり、非行性がそれほど進行しているとは思われない少年にとつては、養護施設による保護がなされるべきものと思料する。

5  よつて、少年を養護施設に送致することとし、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 古久保正人)

〔参考1〕 司法警察員作成の少年事件送致書(昭和61年5月12日付け)の審判に付すべき事由

少年は長崎市立○○中学校3年に在学中の者であるが昭和61年4月20日から家出をくり返し現在も所在不明でありこの間2回長崎市内で警察官に発見され、保護者に身柄引渡しがなされたが、再び家出し、保護者の正当な監護に服さない性癖を有している。

少年はこれまで深夜徘徊等の補導歴3回の他「未帰宅児童」としての保護願が3回ある。

又、無職少年F(16歳)や○○中学校3年に在学中のGと不純異性交遊を為したり、今回の家出中もぐ犯性の高い○○中学校3年B子と行動を共にし、深夜、○○警察署管内の「ハンティングスポット」として、指定されている○○公園周辺に自分達から出向いて、見知らぬ男性の車を止めて同乗を求めたり

○○中学校3年 H方や

○○中学校3年 I子方

の溜り場に寝泊りする等して、長崎市内中学校の非行歴を有する少年達と交友する等自己の徳性を害する行為をくり返しており、このまま放置すれば更にぐ犯性は昂じ将来罪を犯すおそれが強く、早急に保護を加える必要が強く認められる。

〔参考2〕 司法警察員作成の少年事件送致書(昭和61年6月3日付け)の犯罪事実

被疑者J子外25名は共謀の上昭和61年4月20日午前11時30分ころから同日午後0時30分こらまでの間長崎市○○×番×号○○ビル××号K方において○○中学校3年生L子(14歳)○○美容学校生徒M子(15歳)に対し「あんた○○組を作って長崎を占めっとか、占めるなら占めてみろタイマン張らんね」などと怒号していんねんをつけ、被疑者J子、同I子、同N子、同H、同B子、同C子、同O子、同P子、同S・Y子、同Q子、同R子、同S子、同T子をして被害者両名の顔面、肩部、背部、腹部、下腿部などを数10回にわたって手拳、平手で殴打又は足蹴りにし、更に被害者L子の頭髪を鋏で切り落すなどの暴行を加えよってL子に対し顔面、右肩、下腿部打撲による治療2週間を要する傷害を与えたものである。

〔参考3〕 少年調査票〈省略〉

参考4 鑑別結果通知書〈省略〉

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